『セメント樽と自動車』  昨年暮、朝日新聞は労働者の現状を次のように総括しました。  仕事のない労働者は320万人、そしてその中で、一年以上仕事がない労働者は128万人もあって(しかも数千万人の労働者も、その三分の一が不安定な地位で、低賃金で働く「非正規の」労働者です)、「リーマン・ショックから2年。働く現場に光は差していない」。  そして記事の中で、何人かの労働者の苦悩の声を紹介していますが、一人の労働者の置かれている困難で、絶望的な状況について以下のように報告しています。 「5年前、フリーターから寮付きの工場派遣の仕事に就いた男性(30)は生活保護で暮らす。賃金は20万円程度だったが寮費などを引かれ、家を借りるための貯金はできず、他の仕事に移れなかった。『まるでアリ地獄。最後はゴミのように捨てられた。政権交代でこうした働き方の規制が進めば、安定した仕事が増えると思ったのに』」  こうしたことは例外ではなく、何百万の労働者の現実であり、失業した結果、飢え死にまでした労働者のことも新聞に載っていました。  多くの労働者が搾取社会の中で追いつめられ、抜け道のない「アリ地獄」に落ちこみ、失意と絶望と怒りのなかでさまよっています。民主党政権など、労働者を裏切る以外、何もしていないし、できないでしょう。搾取労働の廃絶は労働者自身の緊急の課題となっているのであり、その課題に真剣に取り組み、解決の展望を切り開いていくことこそ、我々の闘いの出発点であり、今なすべきことです。2011年を迎えて、すべてのこころざしのある労働者や活動家は、この原点をしっかり確認し、意思と活動を一つの力として集中して闘って行かなくてはなりません。  もう一つ、やはり昨年の暮の28日、毎日新聞の福岡賢正が「セメント樽と自動車」という短い記事を書いています。全文を引用します。 「プロレタリア作家、葉山嘉樹に『セメント樽の中の手紙』という掌編がある。  ダム建設現場でセメント樽をあけてミキサーに放り込む作業をしていた男が、樽の中に小さい木箱を見つける。箱の中にはセメント工場で働く女子工員のこんな手紙が入っていた。同僚である恋人が原料の石灰岩投入中、破砕器に転落し、骨も、肉も、魂も、一切が石とともに粉々に砕かれ、焼かれてセメントになった。このセメントがいつ、どこで、何に使われたか知りたい。  やりきれない物語だが、それを思い起こさせる実話を最近、若い友人に聞かされた。  彼が中部地方の自動車工場の期間工だった5年ほど前、製造ラインに不具合が生じた。ラインを止め、プレス機の中に1人の工員が入って復旧作業中、別の工員が知らずに運転再開のスイッチを入れ、人間ごとプレスされてしまった。スイッチを入れた工員も、ほどなく首をつって死んだという。  『最先端の工場で、そんな単純ミスで人が死ぬこと自体信じられなかったけど、会社は事故死後、当事者が自殺するかもしれないと考えて予防策をとるべきですよ。なのにみすみす死なせて犠牲者を2人にした。結局、使い捨てなんです』  古里の鹿児島に帰って小さい出版社で働いている友人は、やるせなさそうに言った。  葉山は働いたセメント会社で大正10年に起きた労災事故に触発され、先の小説を書いた。死んだのは6人の子を持つ男で、葉山は遺族への補償増額を会社に直訴した。しかし全く相手にされなかったため、労働組合を作りに走って首になっている。  それから89年。今年もまた、多くの非正規雇用の人々や就職できない若者たちが不安の中で寒々とした年の瀬を迎えている。気の遠くなるほどの歳月の間、私たちは一体何をしていたのだろう」。  これが現在の社会の本質であり、この資本の社会はただ何千万の労働者を搾取し、しいたげ、苦しめることによってのみ繁栄し、肥大化し、存続することができるのです。  商業新聞さえ、今やこの資本による搾取社会の非人間的な本質を、その矛盾の深化と抑圧や搾取の強化について語らざるを得ないのです。しかしもちろん、マスコミはただ一時的に「やるせない」気持ちになり、良心が咎めて「ことのついでに」語るだけであって、次の瞬間には自分の言ったことなどすべて忘れ果てています。彼らは、「それで済む」からです。  しかし労働者はそれでは決して「済まない」のです、というのは、この現実を根底的に変革しなければ、どうすることもできない生産関係の中に置かれているからであり、それほどに追いつめられているからです。労働者は自ら自覚を深め、団結を固めて道を切り開いて行く以外ないのです。  新しい年の始めに当たって、わがマルクス主義同志会は、全国のすべての闘う意思のある労働者、活動家の諸君に、搾取労働の廃絶を目指し、労働者――労働者こそが、この社会をその生産的労働によって物質的に支えながら、最も抑圧され、ひどい状態に追い込まれているのです――の解放を目指し、労働者の闘う政治組織への、そしてまた闘う労働組合への断固たる結集を、団結を呼び掛けます。 2011年元旦  マルクス主義同志会 代表委員会